プロローグ

        校門まで残り200メートル。

             そこで立ち尽くす。

               「はぁ」

           ため息と共に空を仰ぐ。
           その先に校門はあった。

     誰が好んで、あんな場所に校門を据えたのか。
       長い坂道が、悪夢のように延びていた。


              「はぁ…」


     別のため息。俺のよりかは小さく、短かかった。
             隣を見てみる。

       そこに同じように立ち尽くす女の子がいた。
        同じ三年生。けど、見慣れない顔だった。

      短い髪が、肩のすぐ上で風にそよいでいる。


         「この学校は、好きですか」

             「え…?」


      いや、俺に訊いているのではなかった。

       「わたしはとってもとっても好きです。
    でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。
     楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ。
      …ぜんぶ、変わらずにはいられないです」

       たどたどしく、ひとり言を続ける。

    「それでも、この場所が好きでいられますか」


            「わたしは…」


        「見つければいいだけだろ」

            「えっ…?」

          驚いて、俺の顔を見る。

「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」

               そう。

          何も知らなかった無垢な頃。

             誰にでもある。

            「ほら、いこうぜ」


            俺たちは登り始める。

             長い、長い坂道を。